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巻いた瞬間、ココロにぽっと開くしあわせ感。第8回  細川毛織(株) 代表取締役 テキスタイルデザイナー 細川 博さん

南海電車の泉大津駅近く、ここは学校でも習った泉州の繊維産業の中心地。隆盛を極めたその面影は薄くなったものの、より高付加価値の商品を生み出す企業が生き残り、繊維の街の伝統を受け継いでいる。明治43年創業の細川毛織(株)も、そんな老舗企業のひとつ。4代目社長の細川博さんが、5年前に生み出した「カシミヤストール」が、評判だ。ファッションとしてだけでなく、その着け心地が気持ちまで楽しくさせてくれるというストール。商品開発のストーリーから、ストールを巻くその効用まで、伺った。

風のような肌触りが、気持ちを変えてくれる。そんなストールなのです。

最近は男性も含めて、シニア世代がストールを愛用されているのをよく見かけます。細川ストールが選ばれているわけは、どんなところにあるのでしょうか。

松の新緑が美しいご実家の庭園で、インタビューに答えていただきました。

ストールの良さと言えば、よく言われていることですが、
首回りを明るく演出することで、顔の色が明るくなり表情も変わることですね。
首回りをボリュームアップさせると、小顔効果もあります。
でも、それだけなら一般的なストールの話です。

私たちの商品は、ひと言でいいますと。
「巻くと幸せな気分になれる」と。
はじめて、手で触れて頂いた時、想像以上の柔らかさと軽さにみなさん驚かれます。

その理由は、なんといっても5年前に出会った、極細のカシミヤ繊維ですね。
これをゆっくり旧式の織機で丁寧に織り上げる。
こうして生まれる、柔らかい肌触りが、夢心地の感触を生んでくれています。

ご家庭で手洗いできるカシミヤストール。道具のように使い込んでいただきたい、と。

ファッションとして外見的な部分より、軽く、ふんわり柔らかいその感触が、
直接肌に触れることで生まれる、その気分。
思わず、こころうきうきしてくる感触が人気なのかなと、考えています。

シニア世代の方で、気分がすぐれないとき、気持ちがどうしても後ろ向きな時でも、
着けると、「さぁ、でかけよう」、そんな気分になるとおっしゃっていただきます。

中には、お出かけの時、首回りの見た目を隠したい、
と思っていらっしゃる方も多いと思います。
お出かけ前に、鏡の前で着けてみてください。
表情も明るくなって、前向きな気分になりますよ、きっと。

外出の時だけでなく、室内でもつけておられる方もいますね。
軽いですから、一日中着けていても肩も凝らない。
そうそう、健康のため就寝時、軽く首回りにかけておくと冷えもなしに、
寝心地もいいとおっしゃる方もおられました。

ご自身が愛用し続ける「藍染グラデーション」の一枚。ブルーグラデーションのコーディネートが参考になります。

カシミヤストールと言っても決して、お出かけ時のためのファッションとは考えません。

日常使いにどんどん使っていただきたい。
高級素材ですが、私たちのストールは扱いにくいことはない。お家で手洗いもできます。
使い込むほど柔らかくなるし、小さく折りたためるので、
バックに入れてどこへでも持って行けます。

一度、着け心地を味わうと、離せない。
外でも、お家に中でも、カラダの一部のような気持ちで、使っていただけるとうれしいですね。

受継がれた伝統の技が、この一枚に詰まっています。

ここ泉大津だからこそ生まれた製品だと、おっしゃいます。
細川ストール誕生の経緯をお聞かせください。

多くの泉大津の企業と同じように、私たちの会社も戦前は毛布を、
戦後は服地やマフラーを生産していました。ですがご存知のように、
付加価値の低い大量生産品では国際競争にさらされてしまいます。

いろんなことを考えるうちに、5年前にであったのが、
ここ泉大津の紡績会社が開発したカシミヤの極細糸でした。
当時マフラーも厚手のものから、より薄くて大判のものへとトレンドが変わってきて、
この極細糸を使って、ストールができないかと、考えたわけです。
でも、そこからが大変で。

そのままでは、強度が足りなくて、織れない。
そこで、独自の補強を施し、糸を強くして、しかも、伝統的なションヘル織機という、
現在では非効率だから使われなくなった、旧式の有杼織機を使って、
ゆっくり、丁寧に織ることで、この商品が生まれたわけです。
効率を重視する今の高速織機ではとても織れない。

軽さ、ふわふわ感が、「細川ストール」です。

もちろん、アイデアがあってのことですが、
それを製品化するためには、試行錯誤の連続でした。
それを支えてくれたのは、ここ泉大津に受け継がれてきた、人、技術、機械などなどです。

最初に糸を開発した紡績会社も、ここ泉大津の会社。
製品化前の整理加工と呼ばれる、加工工程も地元です。

泉州の繊維産業は、戦国の武将、真田幸村が伝えたとされる、
「真田紐」がそのルーツとされています。
明治になり、日本初で初めて毛布の生産もここから始まりました。

細川ストールには、百年余り受け継がれてきた匠が、詰まっています。
人が連綿と繋いできたひとつひとつの技が、
この空気のように軽い独自の風合いに、集約されているわけです。

極細の天然素材ならではの風合いです。

暮らしの中で、人に寄り添う道具でありたい。

いいものを長く使い続けると、
変わってくる色合い風合いも味わいのひとつだ、と。

細川ストールは、決して効率重視の大量生産品ではありません。
旧式の織機でゆっくり丁寧に織らないとできないですし、
染めに対しても、そんなこだわりから、すべて天然染料による手染めです。

天然染料を使って常温で、手で染めますから、深い味わいが出ます。
そのわけは、天然染料は粒子が不揃いなのですね。
一定の色合いに染まることもありません。
一方で、高温で染める化学染料は粒子が均一になりますから、
鮮やかなパキッとした色合いになります。

自然の染料ですから、すべての工程で手間もかかります。

実際にご自身でされるという墨染めの様子です。

使うほどに、洗うほどに、風合いは変わっていきます。
長く使っていいただいていると、ひっかき傷とかも出てきます。
私たちは、それも味わいと思いますが、
キズが気になって使われないのなら、修理しましょうと。
無料で修理することも行っています。
修理に際してお客さまの声を直接聴くというのは、大変貴重なことでもあります。

風と、光と、墨染めの一枚。

冬は暖かさを、夏には涼しさを装い、オールシーズンで使えるストールは、
流行に左右されるものではありません。

できるだけ長く日常使っていただき、風合いとかの変化も楽しんでいただきたい。

私たちのストールは、暮らしの中で、ひとに寄り添い続けたいと。
そう、見た目だけではなく、気分までもうきうきとさせてくれる道具でありたいと、
思っています。

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