COOCAN人探訪 >第9回 紅茶教室「Suciela Tea(スシーラティー)」代表&Tea Life コーディネーター 吉田 直子さん

「モノ」と「ヒト」との素敵な関係を訪ねて COOCAN人探訪

第9回  「お茶しませんか」の一言が心をつなぐ。紅茶は私らしく、でも緩やかに人とつながるためのツール 紅茶教室「Suciela Tea(スシーラティー)」代表&Tea Life コーディネーター 吉田 直子さん

映画「阪急電車」の舞台になった阪急電鉄今津線。西宮北口から宝塚へと続く沿線の甲東園駅から徒歩3分の場所にあるのが紅茶教室「Suciela  Tea」だ。

紅茶をライフワークに。20代半ばでそう思い立ち、イギリス留学を決めた。

紅茶を学ぶため、OLを辞めて単身イギリスに留学されたそうですね。

紅茶好きの母の影響で子どもの頃から紅茶が大好き。普段からよく飲んでいました。
お客様がいらっしゃると、いつもの紅茶にブランデーが添えられたりして。
その様子を見て、お洒落だなあ、大人だなあって、憧れていたところもありましたね。
そう、我が家にとって紅茶は暮らしの一部。
だから「OLを辞めて何か違うことを始めよう」と考えた時、
自然と紅茶に行き着いたんだと思います。

でも最初からイギリスに行こうと思ったわけではなくて、まず足を運んだのは
日本でも有名な紅茶ブランドが主催する教室です。
ただ、そこで行われていたのは19世紀のヴィクトリア朝時代を彷彿させるような
アフタヌーン・ティーの世界…クラシック音楽に猫足の家具、
そしてフリルたっぷりのエプロンを身に着けた先生が優雅に
"お紅茶"を淹れる教室だったんです。
その光景を目の当たりにして、私がライフワークにしたい紅茶の世界はこれじゃないと実感。
「そうだ。紅茶の本場で学ぼう!」と思い立ち、イギリスを目指すことを決めました。

吉田さんのライフスタイルと感性を反映したようなインテリア空間。ゆったりと流れる時間を感じながら、インタビューのスタートです!

紅茶の本場=たくさんの紅茶の学校がある、と思うでしょう?
でもね、それがないんです。
日本人観光客向けの1日教室など短期のものは色々とありましたが、
学校のように長期で学べるところはなくて。
やっとの思いで見つけたのが、ロンドンの紅茶ミュージアム。
私はここで働きながら紅茶を学ぶことになるのですが、
日本で勉強してきたつもりの英語はめちゃくちゃ、
寮での生活も思っていたものとは程遠く、色々とカルチャーショックを受けましたね。

イギリスで学んだのは紅茶だけじゃない。こだわりは大切に、でも生き方はしなやかに。

イギリス人にとっての紅茶、それを飲むひとときにはどんな意味があるのでしょうか。

紅茶を美味しく頂くのに欠かせないティーコジーは、ひとつひとつが作家さんの手作り。購入することも可能だそうです。

そう、それがまさにカルチャーショックでした。
日本の教室で経験したヴィクトリア朝時代とまではいかなくても、
日本でいう茶の湯のような厳格なルールがあるのかと思っていましたが、
現地の方々は意外にラフ。
ポットにティーバッグを入れて、そこにT-falで沸かしたお湯を注いで、
マグカップでがぶがぶ飲むのが当たり前。
使うティーバッグのブランドもごく庶民的なもので、
日本でいえばスーパーの紅茶売場に普通に並んでいるようなもの。
本格的に茶葉から淹れたものでなければ紅茶じゃない、
なんて決まりはありませんでした。

エントランスに植栽されたお花、エリザベス女王のアイテムも吉田さんのセンスが光ります。

それともう一つ驚かされたのが、
イギリスでは午前と午後にそれぞれ15分の紅茶タイムがあって、
何をしていても手を止めて紅茶を飲んでいいという権利があるんです。
例えば、雑貨店で店番をしているおじさんが紅茶タイムに入れば、
もうそこはお茶を楽しむ場所に早変わり。
従業員も、店で買い物をしているお客さんも、お茶タイムの人には仕事を頼まないというのが
暗黙のルールなので、それを見て誰かが怒り出すなんてことはありません。
おじさんは15分間、紅茶とクッキーを楽しんで何事もなかったようにまた仕事を再開する。
これって日本では考えられないことですよね。

紅茶ミュージアムで働いていた時にも午後3時には必ずお茶の時間があって、
やっぱりみんな仕事の手を止めていそいそとお茶の準備を始めるんです。
当番制なのでもちろん私が紅茶を淹れる時もあり、
その時は「おいしい紅茶を淹れなくちゃ」というプレッシャーと責任感で真剣そのもの。
ミュージアムの館長に声を掛けられても、「今蒸らし時間を計っているので!」って
一瞥もせずに答えたり。
すると、「Naoko、君は紅茶を学びに来たのかもしれないけど、
紅茶の時間に大切なのは会話だよ」と諭されたりして。
そうか、形に捉われずにもっとこの時間を楽しめばいいのかと気づかされました。

エレガントの中にまっすぐな強さとユーモアが溢れるお話に引き込まれます。

これは余談ですけどね、
館長と同僚のフランス人女性がいつもケンカしていて。
女性の名前はAgnesっていうんですけど、フランスの発音では「アニエス」なのに、
館長は英語で「アグネス」って呼ぶ。
「私はアニエスですから」って何度訂正されても、
「イギリスではアグネスだ」と呼び続けるものだから二人の仲は険悪になっちゃって。
でもね、不思議なの。お互いに自分の主張は曲げないし、言いたいことを言っているのに、
お茶の時間には何事もなかったように一緒にテーブルを囲んでいるの。

それを見て私、
自分のこだわりとか、大切にしているものを貫く生き方っていいなと思ったんです。
もっと言えば、自分の意に沿わないから排除するのでも、誰かに無理に合わせるのでもなく、
白黒つけなくても「まあいいか」と緩やかに物事を受け止める。

これって年齢を重ねたからこそできることだし、
いろんな経験をして「自分」という人間が確立された大人にこそ必要な、
柔軟な考え方じゃないかなと思うんです。

「お茶しませんか」は魔法の言葉。イギリスのゆったりライフを、日本のシニア世代にも

「Suciela Tea」を始めて15年以上が経ちました。改めて紅茶の魅力とは何ですか?

立ち上げ当初は仁川駅前のビルからスタートして、その後、現在の甲東園の教室に移転。
実はここ、教師だった私の父が退職金をつぎ込んで建てた物件で、
今もその一室で父は物理教室を開講しています。
だから建物の名前も父の名前をもじって「Ren Small School」っていうんですけどね。

この看板が目印です。居心地のよいスペースは、レンタルサロンとしても利用可能です。ご相談ください。

私のレッスンは最大8名でテーブルを囲み、紅茶はもちろん、
イギリスの文化や歴史についてお話しながら進めます。
その時によって参加する方の年齢は様々ですが、多いのは30代~50代の女性。
レッスンによっては60代や70代の方がいらっしゃることもありますし、
みなさん個別で申し込まれるのでお友達同士ばかりになることはないですね。

最初はわずか3名だった生徒さんもどんどん増え、
初級から資格取得までの3コースや、単発で参加できる気軽なものもあります。
今では「Suciela Tea」を卒業されてご自身の教室を持つ方や、
当教室の認定講師の資格を取って私のアシスタントを務めてくれる人材もいます。

紅茶のパッケージは、インテリアのスパイスの役目も果たす優れもの。

そうそう、教室の転機になったのが、
2007年にスリランカ・サバラガムワ地方の茶園を購入したことです。
2001年に紅茶教室をオープンして以来、毎年イギリスを訪ねる傍ら、
紅茶産地であるスリランカやインドにも足を運んでいたのですが、
いつか自分で紅茶を栽培したいと思っていた時、ちょうどお話をいただいて。

7ha(甲子園球場の面積が1.3haなので約6個分)もの広大な茶園を、
一から耕すところから始めました。
サバラガムワ地方は日本ではあまり知られていませんが、
標高約230mに位置する茶園では芳醇な香りと甘みが特徴の紅茶が穫れ、
しかも「ゴールデンティップス」も収穫できる知る人ぞ知る高級茶葉産地。
「Suciela Tea Garden」と名付けた茶園で穫れた紅茶は、
2016年から教室やオンラインショップでも販売しています。

随所に英国のエッセンスがちりばめられ、全体の統一感が素敵なコーナー。

今、私が紅茶を通じて伝えたいのは、イギリスで学んだライフスタイルですね。
ゆったり、無理せず、頑張りすぎず、緩やかに人とつながる生き方です。

インターネットやスマホの普及で時代が変わり、
シニア世代の方々は何とかそれについていこう、
新しい情報を取り入れようと頑張っていると思うんです。
でも、私はそんなに無理しなくてもいいんじゃないかなって。
知りたいことはどんどん学べばいいけれど、周りに合わせて自分を変えるのはちょっと違う。
「私はわたし」という変わらないルーティーンを守るのも、とても大切なことだと思います。

そういう意味で、紅茶は人と人を緩やかにつなぐ素敵なツール。
特別な理由なんかなくても、紅茶がそこにあるだけで
「お茶しませんか」と声を掛け合い、自然と人の輪ができる。
シニア世代のみなさんにはもっと紅茶に親しんでいただき、
自分の時間、そして人と緩やかにつながる時間を大切にしてもらいたいと思っています。

Suciela Tea(スシーラ ティー)  http://happy-tealife.com/

Recommended

魔法のか・ん・た・んインテリア術
2020.10
簡単お洒落に探さない収納。
出しっ放しのまとまり感。